PRODUCTION NOTES
始まりは織田裕二の言葉
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1997年の連続ドラマで始まり、2012年の『THE FINAL』でいったん幕を閉じていた「踊る」。2024年、「踊るプロジェクト」として12年ぶりに始動したのだが、その際に構想されていたのは同年に公開された柳葉敏郎主演の『室井慎次 敗れざる者』『~生き続ける者』2部作だけだった。連ドラから「踊る」をけん引する亀山千広プロデューサー(以下、亀山P)は「その後にまた『踊る』をやるなんて頭になかったです」と語る。
ではなぜ、織田裕二演じる青島俊作が主人公となる今作が作られたのか。
『室井』の脚本は、当然、織田の元にも届けられた。挨拶に行った亀山Pらに織田は聞いてきたという。物語に感動して涙が出た、なぜ自分は出てないのか、と。織田は現在58歳で、連続ドラマの頃の和久平八郎(いかりや長介)の年齢に近づいており、その時に青島は何をやっているのか、常々考えていたのだという。「やりますか?」と問う亀山Pらに、織田は「やりましょう」と答えた。
「織田くんが動かしてくれたんです。織田くんはいかりやさんを尊敬されていましたし、いかりやさんを織田くんが感化した部分もあると思いますけど、織田くんはずっとそこを意識していたんだなあと、改めて思いました」(亀山P)
君塚も、監督の本広克行も、「『室井』のラストにモスグリーンのコートがちょっと映るとカッコいい」程度に思っていたというが、「次」が決まり、実際に織田が『室井』の撮影に参加。現場で織田は柳葉と固い握手を交わした。映画のラストに「THE ODORU LEGEND STILL CONTINUES」と表示したことで、今作は本格的に動き始めた。
走る青島が誕生
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青島を描くことは決まったが、彼は今、何をしているのか。「僕は若干、どうしたらいいのか、わからないところはありました」と亀山Pは吐露する。年齢に対する認識が29年前と変わっているので、現在の青島は和久ほどは枯れていないのだろうが、それでも君塚と亀山Pは当初、おとなしめの青島を設定していたという。「SSBCで後方支援に回り、官邸の危機管理室で防犯カメラの設置をしてる時に事件に巻き込まれて総理を守る話とか考えましたが、どうしてもピンとこない。青島よりも背景を考えてしまってました」(亀山P)。
そんな時、本広監督が打ち合わせに参加した。監督は一言「青島は走るんです」。それまでと真逆の方向性だ。「ただひたすら走る。映画の原風景でもあります。リアルの新宿や渋谷が再開発で工事中だったので画になるし、今がチャンスだと思いました」と本広監督。「この年で?」という亀山Pに「だから面白いんじゃないですか」。亀山Pも納得した。
そこからはとんとん拍子で決まっていった。東京の街を走るなら捜査第一課所属にして、呼ばれないのにあちらこちらに顔を出すのがいい。その先で青島が新しい仲間とチームを作っていく話はどうだろう。それなら出会うメンバーは、現状に飽きていたり、今の仕事に不満を持っている人たちだ…。
「まさに、最初の頃の湾岸署の構図です。青島は言葉でああしろこうしろというのではなく、背中を見せて周囲を変えていくんです」(亀山P)
ひたすら走る青島に、かつての仲間たちが次々に力を貸し、さらに新たな仲間が加わっていく。そんなストーリーならば新旧両方のメンバーが活きてくるだろう。物語の大枠は、そんなふうに決まっていった。
織田裕二という稀代の俳優
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「織田裕二は天才です」と亀山Pは誇らしげだ。今作でも織田は、全力で青島と「踊る」に向き合い、それぞれのシーンにこだわっていった。撮影の前に考え尽くし、例えば青島なら楽をするんじゃないか、と電動キックボードに乗るアイディアを出す。「もちろん『それ、いただきます!』でした」と亀山Pは嬉しそう。さらに織田は、撮影に全集中なのはもちろん、シーンが終わっても反省点とさらによくなる方法を考え続けていたといい、「それが織田裕二です」と本広監督も断言する。
青島が年をとったことをどう表現するのかも、織田の提案だった。白髪もそのまま、メイクでシワを隠すこともせず、年齢なりの青島に。さらに、年を取ると独りごとが増えるのでは、と言い出し、現場で「聞き込み先でおばあちゃんに甘いものをもらってさ」「犬、可愛いね」など、見たものをぜんぶ口にする芝居を披露。また、和久は腰痛だったが、青島は膝が痛いのではと提案し、膝をさするような芝居も入れこんでいた。「これが今の青島なんだ」。亀山Pも本広監督も納得したという。
主役自らが僕らを動かしてくれたんだから、僕らは面白いものを考えればいい。その点はとても楽でしたよ」(亀山P)
織田のひたむきな背中は、スタッフもキャストも、すべての関係者を奮い立たせた。
新旧多様なキャラクターたち
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連ドラからのレギュラーの真下正義(ユースケ・サンタマリア)や、その妻となった雪乃(水野美紀)、『THE MOVIE2』で敵対していたが今やすっかり味方の沖田仁美(真矢ミキ)をはじめ、お馴染みのメンバーたちは新たな「踊る」出演依頼を快諾した。
「年齢を重ねたキャラクターをどんなふうに演じるかは、皆さんにお任せしました。ご自身が一番キャラクターをわかってますからね。こちらからは関係値だけお伝えしてます」(亀山P)
新たに「踊る」に登場したキャストも多彩だ。
“台東署のレッドラーク”こと元気で猪突猛進な芝田ひばりを演じるのは、朝ドラ「ブギウギ」や、映画『生きてるだけで、愛。』『ほかげ』などで圧倒的な演技を見せる趣里。もともと彼女の演技に惚れ込んでいた亀山Pと本広監督は、今作の決定と同時期に、当て書きに近い形でひばりのキャラクターを造形した。
「若い頃のすみれさん(恩田すみれ/深津絵里)よりもっと危なっかしい感じがいいなと思いました。趣里さんには『一番早く殉職するとしたらあなたです』と説明しましたね。事件に突っ込んでいっちゃうので」(亀山P)
警察や事件をクールな目で見る麻布中央署の美浦秋役は白洲迅。欠点が少なく、カッコいい役回りだ。事務所からの資料を見た亀山Pは「その時点で決めてました」と一目ぼれ状態だったことを明かした。
真下と雪乃の息子で、『THE FINAL』では誘拐されて青島に救われた勇気は、今作では飛び級でハーバード大を卒業、英語交じりの日本語を話す管理官となって登場した。コメディリリーフの難しい役柄で、オーディションでも適材は見つからない。そんな時、本広監督が友人だった増田貴久(NEWS)を推薦。21歳の役を撮影当時39歳の増田が演じるというのは、亀山Pにとっては冒険だったが、「実年齢が近くて上手い俳優はたくさんいましたが、カッコいいだけなら美浦がいる。年齢のギャップがいい感じのコント感を出してくれたし、彩りがつきました。ちゃんと21歳に見えますしね」と納得。「まっすー(増田)は経験値が高いですから、見事に演じてくれました」と本広監督も満足気だ。
北丘雲斗という青島と同期の捜査第一課長は、当初より今作の君塚の脚本に登場していた。キャスティングを考えた時に、亀山Pは織田と同学年の佐々木蔵之介がぴったりだと考えたという。佐々木は『THE MOVIE2』に捜査員の役で出演しており、設定にも違和感はない。本広監督とも旧知だった佐々木は快諾した。
佐藤二朗も本広監督の友人で、満を持しての参加。警察官にして医師という指方輝役を、コミカルかつ重厚なさすがの演技で魅せている。
さらに、女優としても活躍の場を広げる野呂佳代、ももいろクローバーZの玉井詩織、櫻坂46の藤吉夏鈴、=LOVEの元メンバー齊藤なぎさら、女性陣の活躍にも注目だ。「夏鈴ちゃんとなぎさちゃんが並び立ち、そこにちょっとお姉さんのしおりん(玉井)がいる。そして野呂佳代もいる。盤石の布陣です。お芝居も素晴らしかった」と亀山Pは自信を見せた。
信頼感に満ちた撮影現場
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今作は2025年10月25日、青島が新宿の街を走るシーンでクランクインした。早朝から約400人のエキストラを集めたこの日はあいにくの空模様だったが、織田が姿を見せた瞬間、雨が上がった。以降も天候によるスケジュール変更はほぼない、恵まれた環境だった。
お馴染みキャストのテンポのいい芝居の中、新キャストたちは歴史ある「踊る」の現場に少々緊張気味。それでも、本広監督と織田裕二が作り出す柔らかい空気に、すぐに馴染んでいった。特に、2人の信頼関係が現場に及ぼす影響は計り知れなかったと、亀山Pは証言する。「30年ですから。一朝一夕にはできないことです」。例えば、織田と趣里と白洲のシーン。コメディ寄りの展開に趣里と白洲が少し戸惑いを見せると、織田が「監督の言うことを聞いていれば大丈夫だから」と2人に説明する。監督も「織田さんをよく見てください」と演出したこともあった。「織田さんが若者たちに全部説明してくれるから、僕はすごい楽ちんでした」と監督は笑う。
それは、2人が織田の芝居により注目するきっかけにもなった。「青島を見るようになって、青島に対してひばりと美浦がどうすればいいかとより考えるようになる。3人のコンビネーションが、自然に出来上がりました」(亀山P)。「あまりずらしすぎるとかえって笑えなくなります。その匙加減を、織田さんは完全にわかってくれる。長年ご一緒してますからね」と語る本広監督も大きな信頼を見せた。
もちろん、現場の飾りこみや小物などを凝りに凝りまくる「踊る」魂は健在。パワーアップとバージョンアップを重ねていた。さらに、要所要所のエキストラの数も趣里ら新キャストたちが驚くほど大量だったが、その多くは抽選で選ばれたファンによるボランティア。「踊るだから」とロケなどに協力してくれた企業や団体も多く、たくさんの人の「踊る」愛に満ちた現場だった。
約2か月の撮影を経て、12月29日に湾岸スタジオの織田のシーンでオールアップ。先に撮影を終えていた趣里と白洲が駆け付け、織田に花束を渡した。
(文:早川あゆみ)